東京高等裁判所 昭和36年(く)120号 決定 1961年12月11日
少年 H(昭一八・一一・一八生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
少年の抗告の趣意の大要は、
「私は、昭和三十六年十月十二日原裁判所において中等少年院に送致する旨の決定を言い渡されたものである。それは、私が○木という共犯者に誘われてある家の庭に入り、○木がその家に入つて現金千五百円余を盗んだことによるものであるが、この事件の主犯と見られる○木が鑑別所にも行かないで家に帰され、私だけが少年院に送られたことは、納得がいかない。私には前歴があるが、今回の事件によつて今まで三年間通つた高等学校も中退になつて一年余を少年院で過ごして社会に出るときは、学歴もなく、高等学校中退では良い職にもつけないと思うと、目の前が真暗になりそうである。大学の入学試験を控えて東大生の家庭教師まで雇つて勉強していたおりにこのような事件を起したことは、鑑別所にいたときも、少年院に来た現在でも、深く反省している。従つて、もつとよい処分ができないものかとお願いする次第である。」
というのである。
そこで、記録を調査し、少年の生立ち、性格、素行、家庭状態、環境、本件非行の動機、態様、回数、その後の状況、その他諸般の事情を考量し、ことに、少年が昭和三十六年三月から同年六月までの間に原判示第一乃至第四及び第八乃至第一四の各窃盗及び同第七の詐欺の各非行をおかして、原裁判所の審判を受け、同年七月十八日いわゆる試験観察に付せられたものであるが、同年八月十四日原判示第六の傷害の非行をおかして、これも原裁判所に係属し、同月二十九日保護者たる母に引き取られて帰宅したが、更に、同年九月二十三日他の少年○木○夫と共謀の上、原判示第五の窃盗の非行をおかしたものであつて、この最後の非行における少年の地位も、所論のような従属的なものとは見られないこと、以上の非行の大部分は、他の少年との共謀にかかるものであり、右窃盗の大部分は、夜間多くは深夜の家宅侵入によるものであること及び少年の家庭には母がいるが、従前の経過に徴すれば、その保護能方には期待することはできないことに鑑みるときは、少年については、もはや在宅による更生を望むことはできないのであつて、これを少年院に収容して、不良交友を遮断し、規律ある生活のもとに補導、訓練を施し、その性格を矯正するほかはないと考えられるから、これを中等少年院に送致することとした原決定の処分は、相当であると認められるのであつて、所論のように、右最後の非行の共同行為者たるに過ぎない○木○夫との処遇の差異を理由に原決定の処分が不当であるとすることができないことは、もとよりいうまでもない。よつて、本件抗告は、理由がないから、少年法第三十三条第一項後段により、これを棄却することとして、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 下村三郎 判事 高野重秋 判事 堀義次)